大切なひとに贈る、大切なもの。

あなたなら何を選ぶ…?





愛しさと切なさと。






たくさんの人で賑わうショッピングモール内をきょろきょろと見回しながら歩いて行く。
欲しかった服も生活に必要なものも買い終わったロロは、今日の最終目的のモノを探してふらふらと
モール内を歩いていた。
特に何かを見たい、と言うわけではないのだけれど、ふと見つけた服が兄に似合いそうだな、とか、
こういうの好きそうだな、とか、ここにはいない兄のことを考えながらあちこち見て回るのは、ロロ
にとってはとても優しい気持ちになれる時間で。
本当なら、この買い物も一緒に来たかったのだけれど、今日だけは、どうしても兄を誘うわけにはい
かなかったのだ。


──内緒で用意して、兄さんのこと驚かせたいし…。


渡した時の兄の反応を想像して、思わず、くすり、と小さな笑みを零した。
ゆっくりと歩きながら、兄の好きそうなものが置いてある店に立ち寄っては、気に入りそうなものに
目星をつけていく。


──せっかくだし、兄さんが喜びそうなものを贈りたいし…。


だから。
たっぷりと時間をかけて、じっくりと選ぼう。
そう思って、兄に詳しいことは話さずに、ただ『でかけてくる』とだけ言って、明日に控えたバレン
タインに向けて、こうしてショッピングモールに繰り出してきたのだ。
赤やピンクのハート型の飾りやリボンに彩られたモール内を歩いて行くと、こじんまりとした時計店
が目に入った。
自分も兄も携帯を持っているから、改めて時計を持つ、という意識はなかったけれど。


──時計、かぁ…。


悪くないかも、とふと思って、そちらに足を向ける。
行き買う人波の間を縫うように擦り抜けて、ゆっくりと近づいて行くと、店内に見慣れた後姿を発見
する。
さらさらの黒髪を揺らしながら、綺麗なアメジストの瞳で真剣にショーケースを見つめているのは、
間違いなくロロにとって一番大切な存在で。
思わずその場に立ち止まり、瞳を見開いて兄の姿を見つめてしまう。
自分がこの場所に行くことも言っていなかったし、兄がここに来ることも聞いていなかったロロは、
小さな偶然に鼓動を高鳴らせた。
一瞬の驚きが通り過ぎると、今度はじんわりと心が温かくなって。
自然とロロの口元には小さな、けれど、幸せそうな笑みが浮かんだ。


──兄さんもきてたんだ…。


そうして。
アメジストの瞳をふわりと和ませ、兄に声をかけようと一歩を踏み出すけれど、驚きと嬉しさで周囲
への注意をすっかり失念していたロロは、前後左右から歩いてくる人波にぶつかりそうになって、慌
てて流れを避けて。
流れの邪魔をしないように、と、いったん通路の端に避難して。
ふぅ、と小さく安堵の溜息を吐きだして、改めて兄の姿を探して時計店に視線を向ける。
目の前を通過していく人影の間から、いまだにケースを見つめ続けている兄の姿を確認して、まだそ
こに居てくれたことにほっとして。
今度こそ兄の元へ向かおうと足を踏み出した。
けれど。
ショーケースを見つめていた兄が、誰かに呼ばれたようにふいに顔をあげて綺麗に微笑んだのを見て
しまって、再びその場で停止する。


──…ぇ。


何があったのだろうか、と思わず兄の視線を辿ってみると、その先には生徒会メンバーのリヴァルが
にっこりと微笑んでいて。
ちょいちょいっとルルーシュに向かって手まねきをして呼び寄せると、2人で楽しそうに話しながら
別のショーケースの前に移動していく。
「…っ」
身振り手振りでルルーシュの興味を引こうとしているらしいリヴァルと、それを嬉しそうに見ている
兄の姿に、思わず息をつめて。
先ほどまでの幸せな気分はどこかに吹き飛んで、じわり、とロロの心に闇が侵食してくる。
優しい光を灯していた薄紫の瞳に、ゆらり、と怒りの色を滲ませて、にこにことショーケースを見て
いる2人を睨みつけて。
きゅっときつく唇を噛みしめて。
そんなロロに気付くことなく、ルルーシュは時計店で何かを購入して、リヴァルに向かってにっこり
と微笑んだ。
そうして、手に持った紙袋に視線を落として、とても愛おしそうな優しい笑顔を浮かべて。
小さなそれを大切そうにバッグに仕舞いこんでいた。


──…兄さん…。どうしてそんな顔して笑ってるの…。


肩を並べて歩き去っていく2人の後姿をじっと見つめながら、内側から溢れだそうとするどす黒い感
情を必死に抑え込んで。
綺麗な薄紫の瞳に暗い影を落としたまま、ロロは、2人の歩き去った方向を睨みつけていた。
そうして。
自分の心がゆっくりと闇に侵食されるのを容認して。
ロロは静かにその場を離れる。
黒く染まった心で兄へのプレゼントを選ぶ気にもなれなくて、結局、何も買うことはせずにモールを
後にした。










たったひとりの大切な誰かを決めてしまったときから、他のひとなんてどうでもよくて。
そのひとのためなら、何を犠牲にしても惜しくないくらいに。
ただひたすら、そのひとの幸せだけを願って。
そうして。
自分のすべてを捨て去って、いつ限界を迎えるか分からない命の期限の続く限り、そのひとのためだ
けに生きようと。
そう思ってきたのに。



──…それなのに、それはないんじゃない? ねぇ。兄さん…?










真っ暗な自室で闇に沈んだ心を抱えて。
ただじっと瞳を閉じて。


──早く…、帰っておいでよ…。兄さん…。


楽しそうに歩く2人の姿をぼんやりと思いだすたびに、ぶわり、と膨れ上がる黒い感情を抑えること
もできずにいるロロは、いまだ帰らぬ兄にそっと呼びかける。


──そうしたら。兄さんが誰のものなのか、はっきり教えてあげるから…。


ゆらりと立ち上る怒気をそのままに、微かに口元を歪めて。
静かな部屋で一人、イスに腰かけて兄の帰りを待っていると、ふいに小さな物音が響いた。
次いで聞こえてくる優しい声音に、ロロはぴくりと瞼を痙攣させて、ゆっくりと淡い紫色の瞳を開い
た。
「ただいま」
そうして。
静かに立ちあがって自室の扉を開き、兄のいる方向に歩きだす。
あれからもあちこちで買い物をしてきたのか、がさがさと音をたてて荷物を下ろしている。
その荷物の中に小さな紙袋を見つけて、瞳に暗い光を灯して。
「おかえりなさい。兄さん」
そっと兄に声をかけた。
「…っ。ロロ…?」
すると、その声に驚いたルルーシュは、ひくり、と一瞬息をつめた。
アメジストの瞳を大きく見開いて、勢いよく振り向いて。
背後に立っている弟の存在を認めて、ほっと肩の力を抜いた。
「…なんだ…いたのか…? 真っ暗だからまだ帰ってないのかと思ったじゃないか…」
驚かせるな、と苦笑を浮かべている兄の姿を冷めた瞳で見つめながら、ちらりと荷物に目を向ける。
そうして。
いつもなら、帰宅した兄を優しい笑顔で出迎えるのに、表情を消して感情を読み取らせない声音でぽ
つりと呟いた。
「買い物…?」
「あ…ああ」
そんなロロの様子に戸惑いを隠せずに、ルルーシュは一瞬言葉を詰まらせた。
真っ暗な室内と弟の態度に、微かな緊張が生まれる。
そんな兄の戸惑いを感じていないはずはないのに、ロロは口元を微かに歪めて陶然とした笑みを浮か
べて。
けれど、瞳は冷たいままで。
「ふぅん…。誘ってくれればよかったのに」
呟きながら、ロロはゆっくりと兄の側に歩み寄る。
訳が分からずに、近づいてくるロロをじっと見つめていたルルーシュは、緊張と不安から無意識にこ
くりと喉を鳴らした。
弟の様子がおかしいのはわかるのだけど、それがなぜなのか、いつからなのか、まったく見当がつか
なくて。
戸惑いに瞳を揺らして、弟に小さく呼びかけた。
「…ロロ…? どうかしたのか?」
ゆっくりと近づいてくるロロに身構えて、微かに後ずさる。
そんなルルーシュを見て、おかしそうに瞳を眇めて。
「…別に…?」
「…ロロ…?」
そうして。
兄のそばに置かれている小さな紙袋を拾い上げた。
がさり、と音をたてて中身を確認すると、綺麗に包装されたものが目に入る。
兄らしい、爽やかな青色の包装紙と深海を思わせる深い青色のリボンに包まれたそれを見たロロは、
ふぅん、と鼻を鳴らす。
「兄さん、時計なんかしたっけ…?」
自分の目線の高さに紙袋を翳して、印刷された店名を確認して。
ちらり、と兄に視線を流せば、瞬時にして頬を赤く染めた兄の顔があって。
「…っ。それは…っ」
言葉に詰まって、俯いて。
それ以上は口を開こうとしない兄をおもしろくなさそうに眺めて。
意地の悪い笑みを浮かべて。
頬を染めて俯いている兄にそっと近づいて。
「誰かにもらった? それとも…」



…誰かにあげるの?



「…っ」
兄の耳元で囁くように呟けば、びくり、と体を竦ませて驚いた。
それがおもしろくなくて。
言いたくないなら別にいいけど、と肩をすくめて兄のそばから離る。
そうして、不安そうに見つめてくるアメジストの瞳に見せつけるようにして、紙袋を持っていた手を
ぱっと離した。
「…待っ…」
支えを失った紙袋は、制止するように声をあげ、落下するものを受け止めようと慌てて手を差し出し
たルルーシュの指を掠めて。


カシャン。


小さな音をたてて床にぶつかった。
「…っ」
小さな、けれど、硬質な音の響きに、ルルーシュは慌てて駆け寄って、床に落ちている紙袋に手を伸
ばす。
そんな兄を眉ひとつ動かさずに見つめていたロロは、ルルーシュの手が紙袋に触れる直前に、兄の細
い腕を掴んで自分のほうへ引き寄せた。
もう少しで届く、というところで動きを止められたルルーシュは、驚きの声をあげながらも弟の腕の
中に抱き込まれた。
「ロロ!?」
まだ幼さの残るロロの胸に、どさり、と倒れこんで、抗議の声をあげて。
アメジストの瞳にほのかに怒りの色を滲ませて、睨むようにロロの瞳を見上げた。
すると、まっすぐに見つめてくるロロの瞳と視線が絡まって。
紫水晶のような瞳に自分が映っているのをぼんやりと認めて、その瞳がゆらりと揺らいだのを見てし
しまって。
抵抗することも忘れて、紫色の綺麗な瞳がそっと閉じられてロロの顔がゆっくりと近づいてくるのを
呆然と見上げてしまって。
はっと気づいた時には形の良い唇が目の前に迫っていて。
慌てて腕に力を入れて弟の胸を押し返したけれど、そんなことで止まるロロではなくて。
「ちょっ…と、待…っ…んっ」
抵抗するように言葉を発しようとした兄の唇を自身のそれで塞ぐ。
軽く触れるだけの口づけは、ルルーシュの言葉を奪い去って。
「んぅ…ロ…っ」
そうして。
角度を変えるたびに小さくあがるルルーシュの吐息さえも封じるように。
逃げ惑う舌を絡め取るように深く、深く。
「…ぁ…ふ……っ…ん…」
呼吸さえままならずに、頭がぼうっとして、やがては小さな抵抗すらでずにロロに縋りついて。
ぎゅっと瞳をきつく閉ざして、崩れ落ちそうになる自身の体を支えている弟の服を握りしめて、眉根
を寄せる。
そんな兄の様子を薄眼を開けて見ていたロロは、ルルーシュの腰に手をまわして体を支えながら、軽
く音をたてて兄の唇を啄ばむと、赤く熟れた唇をそっと解放した。
酸素を求めて薄く開かれた兄の唇をうっとりと眺めて、真っ赤になったそれをぺろりと舐めると、ふ
るり、と体を震わせて、微かに潤んだ瞳に怒りの炎をゆらりと揺らしたルルーシュがきっと睨みつけ
てきた。
「…っ…ロロ!」
短く弟の名前を呼んで、突然の行動に怒りを露わにするけれど。
ルルーシュを見つめるロロの瞳にはどこか悲しげな光が浮かんでいて。
「…っ…何するんだ!!」
それに気づかないわけではないけれど、突然の奪うようなロロの態度は容認できるものでもなくて。
きつい口調で詰問するように詰め寄るけれど、目の前で冷めた表情を崩さずにいるロロは暗い瞳のま
まで。
それに気圧されたように続けて吐きだそうとした文句を、こくりと呑みこんでしまう。
微かな戸惑いに瞳を揺らした兄の姿を、自身の瞳に映したロロは、透明な涙にきらきらと輝くアメジ
ストの瞳をじっとのぞきこんで。
「ね…ソレ、誰にあげるの…?」
感情を押し殺した声でぽつりと呟いた。
どこか頼りない、自信のないその声に、怒りで熱くなっていたルルーシュは、自分の気持ちがすっと
落ち着いて行くのを感じ取る。
そうして、感情を読み取れないロロの様子を思い返してみる。



やたらと紙袋を気にしていたことや、先ほどまでのロロの発言を思い出して、まさか、と思う。



「お前…なにか勘違いをしてないか…?」
ロロの様子を伺い見ながら、綺麗な柳眉をきゅっと寄せて。
何の感情も映さない瞳を覗き込みながら、そっとロロの頬に片手を添えて。
優しく触れてくる兄の手に、びくり、と反応したロロは、心配そうに見つめてくるアメジストの瞳に
耐えられずに、そっと視線を逸らせた。
それを見たルルーシュは自分の考えが的中していたことを確信して、両手で弟の頬を包み込み、そっ
と、けれど抗うことを許さずにロロの顔を上げさせる。
そうして。
苦笑とともに小さな吐息を吐きだして、優しく微笑んで。
「まったく、おまえは…。何を勘違いしているのか知らないが、そんなにコレが気になるか…?」
戸惑いに揺れる弟の瞳に苦笑いを残して、自分を閉じ込めているロロの腕を軽くたたくと、それを合
図に腰に回された腕がするりと離れる。
拘束する腕から解放されたルルーシュは、じっと見つめてくる弟の目の前で、落とされた紙袋をひょ
いっと拾い上げた。
汚れてしまっているそれの埃を軽く払って、そっと中を確認する。
幸い、硬めの箱に入れられているそれには、目立つような傷は見当たらなくて。
それにほっと息を吐きだして、紙袋から取り出して、少し乱れてしまっているリボンをロロの目の前
で大切そうに結び直す。
一連の兄の挙動をじっと見つめていたロロは、愛おしそうに小箱のリボンを直す兄の姿に、小さく息
を呑みこんで。
誰かのためのプレゼントに嬉しそうにリボンを巻く兄を見ていたくなくて、そっと視線を逸らした。
「少し汚れてしまったが…、まぁ、これも自業自得だと思えよ?」
そんなロロに向かって、優しい苦笑を浮かべて、ルルーシュはそっと小箱を差し出した。
「…?」
ふいに視界に飛び込んできた青色のプレゼントを見たロロは、綺麗なその瞳に戸惑いの色を浮かべて
そっと兄の顔を伺い見た。
「…兄さん…?」
そんな弟の頼りなげな様子に、くすり、と愛おしそうな笑みを零したルルーシュは、片手でロロの手
を取って、その手に小箱を手渡した。
「…え…?」
自分の手に乗せられたそれに、激しく動揺して。
戸惑いの浮かんだ瞳を兄に向けた。
そこには愛おしそうに微笑む兄の姿があって。
「…お前にだ。壊れてたとしても、自分の責任だからな?」
少し照れくさそうなその言葉に、思わず瞳を見開いて。
手の中にある小箱と兄の顔を交互に凝視して。
それに耐えられなくなったルルーシュは、ほんのりと頬を朱色に染めて、わざとらしく視線を逸らし
た。
「…ほら。わかったらさっさと中に入るぞ」
そうして、固まったように動かないロロから逃げるように、床に置き去りにしていた荷物を持って廊
下の奥へと歩き出した。
そんなに大量ではないけれど、細身の兄が持つには重たそうな荷物を持って、自分の横をすり抜けて
いく。
兄が移動したことで、ふわり、と微かな風がロロの側を吹きぬけて。
それが停止していたロロの思考を動かして。
「…うわっ」
咄嗟に、歩いて行く兄の腕を後ろから掴んでいた。
突然引き寄せられたことにバランスを崩して、ルルーシュは短い悲鳴をあげて荷物を手放した。
「ロロ!?」
そうして、そのままロロに後ろから抱きすくめられて。
自身の首元にさらりとした髪の感触を感じて、思わず脱力して。
「…おまえな…」
危うく転びそうになったことで暴れだした心臓を落ち着かせようと深く深呼吸をして。
溜息を吐きだしながら、そっと柔らかい髪に手を添える。
「うん…ごめん…」
その手の優しさに思わず泣きそうになりながら、ロロはぽつりと呟いた。
微かに震える弟の声に、苦笑を滲ませたルルーシュは、ロロが落ち付くまで、ただそっと弟の髪を優
しく撫で続けた。





-fin-


NAO様へ
リクエスト頂いていたギアス小説がこんなことになりました…
いろいろな意味でごめんなさい…。ほんとこんなのですみませんとしか…
ギアスは好きなんですが、小説を書いたことはなくて。
しかも先にREBORNのバレンタインあげてから本格的に手をつけたので、なんだか慌ただしくなってしまって。
乱暴にならないように気をつけたつもりですが、へんな文章になってたらすみません(泣)
こんなもので申し訳ありませんが、約束通りNAO様に捧げさせていただきますm(_ _)m
またなにかリクエストあればNAO様ならいつでも書かせていただきますよ!
…とはいえ、きっと駄文には変わりないかと思われますが><
それでもよければいつでも><

REBORNサイトにも関わらずギアス作品を読んでくださった皆様へ
ここまで読んでくださってありがとうございます><
初書きジャンルの上に初挑戦CPのためお見苦しい部分もあったかと思いますがどうかご容赦くださいませ><
どうにもルルとロロの性格とか口調とかがおちつかなくて(苦笑)
あれこれ調べながら書きはしましたが、原作様の設定やキャラが壊れていましたら申し訳ありません><
また書くよう機会がありましたら次こそはがんばります…! ハイ。
2009.2.14

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